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愛知県豊田市浄水町伊保原173-1

院長ブログ

豊田加茂医報の巻頭言

2020年1月16日

あけまして おめでとう ございます。ちょっと遅いですが・・

本年もよろしくお願い申し上げます。

 

昨年暮れの豊田加茂医報の巻頭言に、私が投稿させていただきました。

といっても、ただ順番が回ってきてから、医師会理事として関わった仕事のことを書いただけなのですが、

思いがけず、ある先生から「よくまとまっていて、とってもいい報告だ」と、お褒めの言葉をいただいたので、掲載しました。

初めは真面目な文章でしたが、後半は、このブログ同様、ふざけた文章になってしまいました。

お時間あったらご一読ください。

 

 

防災訓練―ラグビーワールドカップ開催にあたって

 

 先日、ラグビーワールドカップ日本大会が開催され、ジャパンの活躍で、日本中が興奮に沸き返りましたことは、記憶に新しいところです。その、世界が注目するこの大会での試合のうち、4試合がここ豊田市の豊田スタジアムで行われたのです(最終試合は中止)。豊田で開催されることが決まった平成26年から、県医師会の救急委員会では、テロ対策はどうなるのか、大規模災害時にはどうしたらいいのだろうか、という議論がされてきました。

 

 そして、平成27年5月に、消防本部が先導して、「ラグビーワールドカップ2019開催に向けた消防庁内関係会議」開かれました。それ以後、消防署や豊田市が中心になって、会議が何度も行われてきました。そして、ワールドカップ開催前に、テロ災害を未然に防止するための予防事前対策をとるべく、平成29年11月に豊田スタジアムにてテロ災害対応訓練が開かれ、以後約二年間にわたって、スタジアムのほか、ファンゾーンとなるスカイホール豊田や交流館など各地で防災訓練が、何度も行われてきました。

 

 その防災訓練についてですが、当初参加者は、救急隊と医療関係者、傷病人役のボランティアの学生さんだけだったのが、やがて警察隊が参加し、ついには自衛隊まで参加する大規模な訓練へと拡大していったのです。その内容も、患者をトリーアージして病院搬送手配までが主たる訓練でしたが、ターニケットを使った止血訓練、点滴や気道確保(もちろん模擬訓練ですが)といった訓練に発展していったのです。訓練は、けが人の対応にあたる人たちだけでなく、けが人役の学生さんや市の職員さんたちも真剣に取り組んでおり、皆さん迫真の演技そのものでした。患者さん役の方々は、本当に意識がないのではないか、手が切断されて大量出血しているのではないか、と思えるような緊迫感が伝わってきます。このように消防隊を中心とした、テロ災害対応訓練は順調に行われてきました。

 

 一方、ワールドカップ試合開催時における医療体制についてですが、スタジアム内は大会組織委員会、その他の市域における会場等は開催自治体が責任をもつ、ということにきまりました。つまり、スタジアム内でおこった大規模災害やテロ事件については、大会組織委員会が責任もって救護にあたり、一歩スタジアムでたら市や県の責任で行う、という体制です。

 

 そして、スタジアム内は大会組織委員会により、選手・マッチオフィシャル用医務室や観客救護室が配備され、専任の医師・看護師、消防や警察も常駐し、救急車も待機することになりました。そして重傷患者は、トヨタ記念病院に搬送するという計画になりました

 

 しかし、スタジアム外の医療体制については、愛知県や豊田市の方針がなかなかきまりませんでした。そのため、私たち医師会の関わり方について、ぎりぎりまで明らかにならなかったのです。

 

 当初愛知県医師会の救急委員会では、スタジアム前の広場にテントでも張って救護所を作るべきだとか、テロという言葉がでる限り、医師は派遣できないから、医師会としては協力できないという人もいて、意見が分かれました。真っ先に搬送されるであろう、豊田厚生病院の先生は、試合当日は土日・休日なので、休日出勤してくる医師や看護師を特別に増やすことは難しい、たくさんの患者さんが来たら、パンクしてしまう、といった意見もでて、さまざまな論争になってしまいました。自治体からの指示が曖昧なまま、開催日が近づいてきました。

 

ようやく今年6月になり、スタジアム外の医療提供体制について、あきらかになってきました。

 

  1  ファンゾーンであるスカイホールに、医療救護本部事務局を立ち上げ、救護室を設置し、医療コーディネートを担う医師が一人待機する

 

  2 ほかにも一時的に収用できる緊急避難所を設定する。そして二人の待機医師をきめて、有事の際は1時間以内にスカイホールに集合してから、緊急避難所となる近くの交流館にて救護にあたる。

 

  3  最大レベルの死傷者が発生した場合には、医療コーディネートを担う医師の指示のもと、市内の医療機関のみならず、医療体制の構築方針を愛知県と共有し、広域的な医療機関への協力をお願いする 

という大まかな体制が決まったのです。

 

 テロ事件や大規模災害が起こるとしたら、スタジアム内やファンゾーン内より、最寄り駅(豊田市駅・新豊田駅)からスタジアムまでの間の「ラストマイル」とよばれる区間が最も危険で、事故やテロ事件が発生しやすい、というデータが報道されました。確かに 2001年に兵庫県で起こった「明石花火大会歩道橋事故」の例があります。イベントが終わって、大量の群衆が雪崩れのようにおしよせ、下敷きになった多くの方が死傷したという、痛ましい事故ですが、今大会でも、「ラストマイル」でこのような大規模災害が起きかねないのです。この「ラストマイル」は警備する警察官も少なく、救急隊が常駐しているわけでもなく、群衆のなか救急車も入りにくい状況です。このため、爆発物を置くようなテロ事件が最も起きやすいですし、救護もすぐに行えない地域なのです。加えてゲリラ豪雨など天災が起こった場合にも、群衆を前にして救助に向かえない、群衆も非難する場所がないといった状況が想定されます。よっぽどスタジアム内やスカイホール豊田のファンゾーン内のほうが安全なのです。救急隊や警察隊も、この「ラストマイル」の事故やテロについて、特に警戒していました。

 

 かく言う私は学生時代にラグビーをかじったということもあり、大のラグビーファンであります(ラガーマンはとっくに引退しましたが…)。豊田スタジアムで開催される4試合のチケットを手に入れ、今か今かと楽しみにしておりました。でも救護所にいなければならないのでは、楽しみにしていた試合を見られないのではないかと、内心びくびくしておりました。

 

 ところが、運よく、ファンゾーンでの待機医師は、副会長のI先生が引き受けてくださり、私はそのかわり4試合とも待機医師となったのです。つまり、試合中はファンゾーンまで歩いて1時間以内のところにいればいいので、仕事をかねて好きなラグビー観戦していればいいのです。こんなラッキーなことはありません。もし由々しきことが起これば、試合も中止になるでしょうから、諦めもつくということです。

 

 豊田スタジアムでの第一戦、ウエールズ対ジョージアの観戦、いや、待機医師としての仕事に向かう時のことです。電車から豊田市駅をおりたら、いつもの景色とは様相が一変しておりました。ウエールズの赤いジャージに、イエローのフラワーハットを被って、顔に派手なペインティングをした、たくさんの外国人が、駅前広場を埋め尽くしていたのです。彼らは、試合会場に向かうのも忘れて、ビールを浴びるように飲みながら歌い騒いでいました。これではなかなかスタジアムに向かって進めませんし、こんな群衆のなかに、テロを起こすような犯人がいてもおかしくありません。お祭り騒ぎの裏に何かが起こるのでは、という不安もよぎりました。でも私もつられてビールをのみながら、とぼとぼとスタジアムにむかっていくうち、酔いが回ってきて、彼らのさわぎたくなる気持ちも少しわかるようになりました。

 

 それに比べて、スタジアム内は警察や救急隊の人、ボランティアの案内係の人たちなど多くのスタッフをお見掛けし、安心と安全を感じました。やはり、最寄り駅から会場までの区間、「ラストマイル」が最も危険と実感したのです。

 

 何はともあれ、この大会が無事に終了して、本当によかったと思います。不測の事態のために準備を重ねてきた会議や訓練は、不発には終わりましたが、今後の有事の際に、必ずや生かされることを切に願っております。