この度、医師会の雑誌に投稿してください、と頼まれました。
最近の救急医療のトピックであるこの話題について、投稿しましたので、そのまま載せます。
かかりつけ医として在宅治療をされている先生には、特に関係のある話です。ACP(Advance Care Planning)という言葉を最近耳にするようになってきました。これは、将来の変化に備え、医療及びケアについて、本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのことで、いわゆる「人生会議」です。本人が人生の最終段階、つまりがんの末期や寝たきりなど、回復不可能な疾病の末期等になったとき、心肺停止しても心肺蘇生を望むかどうか、という意志を、本人・関係者が、あらかじめ決めておく必要があります。
本来ならば、このような傷病者が心肺停止におちいったときは、ご家族がかかりつけ医などに連絡し、自宅で看取りをする、というのが自然な姿であります。ところが家族が慌ててしまって救急要請をしてしまう事案があります。
そうなった場合に、昨年度まで救急隊は、救急要請をうけた以上、本人の意思にかかわらず、法律に従って、その傷病者に対してできる限りの救急蘇生を試み、医療機関に搬送することになっていました。
しかし それでは傷病者本人の意思に反したことになってしまいます。昨年から名古屋市や海部地区などでは、本人の意思を尊重し、一定の条件下で、救急蘇生をせず、搬送もしないということになりました。
具体的に説明しますと、そのような傷病者に対し、あらかじめ、かかりつけ医は、いざというときに心肺蘇生をするのかどうか、本人や家族の意思を確認しておきます。できれば、「不搬送に関する医師の指示書」に署名を行っていただきます。必ずしも書面はなくても、意思確認ができていれば結構です。
救急隊はそのような状況に遭遇した場合、かかりつけ医に連絡がとれ、かつ医師から心肺蘇生をしないという指示があり、40分以内に到着できる場合はかかりつけ医師に引き継ぎます。また、40分以内でなくても、12時間以内に医師が現場に駆けつけることができれば、家族に引き継ぎ、救急隊は心肺蘇生を中止します。そして、救急隊が持参した「不搬送の同意書」に、ご家族が署名していただいたうえで、不搬送となり、救急隊は現場を引き上げることになります。
この救急隊活動に関する話題は。昨年春の段階で、当医師会にも話があり、理事会で問題はないと判断され、承認されました。そして西三河メディカルコントロール(MC)協議会で承認されれば早速施行される予定でした。
しかし、MC協議会では異を唱える医師会があったのです。
その理由は、はたして同意書だけあれば本当に見殺しにしてもいいのか、あざがあったらどうするのか、家族や他人からの虐待の可能性はないのか、など法律的な問題でありました。
今年3月に、愛知県救急委員会主催で、この話題に関する救急医療災害医療シンポジウムが開催されました。受け入れる救急病院、現場の在宅医療に携わる医師、介護施設などの医療関係や 救急隊などの講演に加え、弁護士事務所の法律家にも講演してもらい、ようやく愛知県全体の医師会の同意が得られました。
先ほど申し上げたように、昨年度までは名古屋市内と海部郡の地域で、すでにこの活動は実施されていまして、名古屋で数件のみ、海部郡は1例もなかったときいています。しかし、この4月から6月にかけての時点で、豊田消防署管内でも、すでに2件発生しています。そしてこの8月1日に行われた西三河MC協議会において、さらに7月にも事例があり、西三河管内で合計7件、うち豊田消防署管内で合計3件の事例があったとの報告がありました。
救急要請のあった7件のうち、かかりつけ医に連絡がとれて不搬送となったのは4件、救急蘇生のうえ病院へ搬送したのは3件でした。
具体的に搬送になってしまった理由は、かかりつけ医に連絡がとれなかったのが1件、施設内入所中で、担当医師と家族とのはっきりとしたコミュニケーションがとれていなかった1例、もう1例は、以前にかかりつけ医であったものの、最近往診に行っていなかったので状況がわからず、医師が判断できないため、搬送指示になった、という症例でした。
ふだんから、ご本人・ご家族と、かかりつけ医のコミュニケーションがきちんととれていないと、本人の意思にかかわらず、救急蘇生のうえ病院搬送という事態になってしまいます。その点について、ケアマネージャーなどの社会的活動が重要であると感じました。
これからも、このような事例がふえてくるかもしれませんので、ますますかかりつけ医の役割は重要になってきます。是非皆さん、ご承知いただきますよう、お願い申し上げます。